固体量子物性研究室への進学のすすめ

(固体物理学研究室は2005年4月から「固体量子物性研究室」に改名しました。)


大学院以上で研究生活を続けていくには、自分が他の人より得意な分野、また芸風・作風のようなものを見つけるのが重要です。「これに関しては世界で一番自信あり!」のようなものを自分に見つけられたら大成功です。若いときには吸収力が旺盛ですから、自分の弱いところを克服する努力も今のうちなら随分有効です。そのためには謙虚な向上心が重要な資質です。しかし、自分の弱点克服よりも、得意技を磨く方がはるかに重要ですから、ある程度の能力バランスがついたら自分の強いところを見つけて、それをどんどん磨きましょう。これは研究者としての進路を選ぶ人に限らず、どんな分野でもいえることでしょうか。

結局、世界中にいろんな物理学者がいて、とんでもない秀才も一杯いる訳です。しかし、あたりまえのことですが、研究の世界では試験で特異的に高い点数を稼ぐような能力が決め手になるとは限りません。むしろそのような能力が邪魔になることもしばしばです。秀才じゃなくても、他の人に出来ない素晴しい研究はできるわけだし、それぞれ自分としての特性を活かせる役割があるはずですね。自分に何ができるのか、それを見つけるのは楽しみではありませんか?そんないろんな科学者達が集まって全体としてひとつの生命体のように科学が成り立ち、その生命体が生育するように科学が進歩していくのだと思います。

固体量子物性研究室の学風として私が目指しているのは、大学院生もそれぞれひとりの(新米)科学者として、自由な雰囲気のなかで積極的にどんどん攻めの研究をしてくれることです。そのため、普段からセミナー等では教官の間でも意識的に激しい議論をするようにしています。疑問に思ったこと、納得できないことはどんどん質問するよう、普段から皆でトレーニングしています。物理の議論では「先生」と「学生」の枠など意識せずコミュニケーションできる環境がいいですね。

京大に着任して当初、驚いたことは、セミナー等で周りに消極的な大学院生が多く、迷わず後ろの方の席にさっと座ったきり、全く質問をしようとしない態度の学生が目についたことです。皆それぞれに立派な研究をしており、理解力も十分あるのですが、このような学生では国際的にはなかなか通用しないのではないかなあ、と心配しました。京都は外国からのお客さんも沢山来られ、頻繁にセミナーが開かれます。したがってそんな場で、皆の前で堂々と質問・議論できるような度胸をつける機会はふんだんにあるので、これを活用して自分を進化させましょう。

「重要な研究だからこれを研究するんだ」、というのより「面白いからこれをどんどん探求するんだ」という生き方のほうが強い!「重要な」研究より、面白い研究を自分のテーマに選ぶ方が正解でしょう。「近藤効果」の近藤淳さんが1990年に電総研での退官講演をされたとき、私はたまたま筑波大学に滞在していて、幸運にもそれを拝聴することができました。その講演で、近藤さんもこれとほぼ同じ趣旨のことを「若者への言葉」としておっしゃったとき、私がそれまで思っていたこととビビンと共鳴したのがうれしく、私は印象強く覚えています。2002年12月に研究室の卒業生の結婚式披露宴で近藤さんにお会いしたとき、この話をご本人に確認することが出来ました。近藤さんは「のめりこんでいけるようなテーマに出会うのが大切ですね」とおっしゃっていました。

本研究室では、他大学、他学部の出身者の進学も大いに歓迎します。伝統もあり、自由な学風が麗々と受け継がれている京大の物理教室で、そのメンバーとして研究できるのはやりがいがあり、大きな喜びです。また京都は伝統文化、時代の先端を走る文化、身近な自然環境を兼ね備え、街全体が学生・大学を誇りに思い大切にしてくれるところです。学生として、人生の時間を過ごすのに十分価値のある、とても魅力的な街です。

私が広島大学から京都大学に着任した1996年以降では、他大学の卒業生としては、北海道大学、東京工業大学、慶応義塾大学、静岡大学、名古屋大学、大阪大学、神戸大学、広島大学、九州大学、シドニー大学から、また京都大学の工学部や総合人間学部からの卒業生も本研究室で大学院生活を送ってきました。平均すると毎年1−2名は京大物理以外の出身者です。今後、益々多くの方が、全国から固体量子物性研究室に進学してくださるよう大いに期待しています。

(前野 悦輝 maenoアトscphys.kyoto-u.ac.jp) 2005年4月15日改訂