超伝導体Sr2RuO4の精密なスピン磁化率測定

超伝導体Sr2RuO4ではスピン三重項対の実現が期待されていますが、ab方向の上部臨界磁場が異常に抑制されて一次相転移で超伝導が消失するなどの、これまでの仮説では理解できない現象が報告されています。 スピン三重項対の実験的根拠の1つとして、スピン帯磁率に対応する核磁気共鳴(NMR)のナイトシフト(共鳴線のシフト)が超伝導状態で減少しないという結果があります。この結果を検証するために、当研究室において、 測定精度を向上して99Ru核のNMRを改めて行ったところ、超伝導状態でスピン磁化率がわずかに増大することが明らかとなりました(解説記事)。 その一方で、一次相転移に伴ってNMRスペクトルが不連続に大きく跳ぶなどの異常が存在して99Ru NMRでそれを見逃している可能性が完全には排除できません。 99Ru核の結合定数は大きいので、この可能性の検証には広範囲なスペクトルの測定が必要ですが、信号強度が弱い99Ru NMRではそれは容易ではありません。

今回我々は、17O核を同位体置換したSr2RuO4に対して酸素核磁気共鳴を行い、一次相転移の領域も含めてナイトシフトを測定しました。 17O核は99Ru核に比べると電子との結合が小さく、かつ信号強度が強いことから、スピン帯磁率の大きな変化の有無を判別するのに適しています。 その結果、どの測定磁場においても、ナイトシフトの減少などの異常は検出されませんでした。 スピン一重項対の場合でも、共鳴線のシフトは観測が可能な範囲に収まるので(下図)、今回の結果から、スピン帯磁率が一次相転移に伴って突然減少する可能性がより低くなったと考えられます。 しかしながら、依然として磁場によるSr2RuO4の超伝導の抑制は未解決の課題であり、今後の研究の進展が望まれます。

この結果はPRB誌に掲載されました。

Sr2RuO4における17O NMRスペクトル
Sr2RuO4における17O NMRスペクトルの温度変化。ab方向の1.3 Tの磁場下(一次相転移)で得られた結果である。 Sr2RuO4には異なる酸素サイトが存在するため、ab方向の磁場では3本の共鳴線が観測される。 中央の共鳴線[O(2)サイト]を基準にとることにより、他の2つのサイトの精密なナイトシフトが得られる。 下向きの矢印はスピン一重項対の場合に期待される共鳴線の位置を表す。

論文情報

Masahiro Manago, Kenji Ishida, Zhiqiang Mao, and Yoshiteru Maeno
Phys. Rev. B 94 180507(R) Nov. 2016