超伝導体Sr2RuO4における磁気ゆらぎの増大

超伝導体Sr2RuO4ではスピン三重項対が実現している可能性がありますが、その場合、超伝導状態でクーパー対がスピン自由度を持ちます。そのため、この自由度に起因する、スピン一重項超伝導体には見られない様々な現象が期待されます。そのような状況の下、先行研究の酸素核17Oに対するゼロ磁場下の核四重極共鳴において、核スピン―格子緩和率1/T1が超伝導状態で異常な振る舞いをすることが報告されています[1]。これはクーパー対がスピン自由度を示唆する興味深い結果ですが、関連する実験報告が他になく、その詳細を理解するためにはより詳細な実験的、理論的研究が望まれてきました。

今回我々は、超伝導を担う電子との結合のより強いルテニウム核101Ruに対して核四重極共鳴をゼロ磁場下で行い、その核スピン―スピン緩和率1/T2が超伝導状態で増大することを明らかにしました(下図)。良質の試料の方が増大が大きいこと、および超伝導が消失する磁場下で増大が見られないことから、今回観測された1/T2の増大はSr2RuO4の超伝導の固有な性質であると考えられます。この異常な増大は、先行研究も踏まえると、c軸方向の低エネルギーの磁気ゆらぎが発達することを示唆しており、上述の先行研究と定性的に整合的です。また、いくつかの強相関系のスピン一重項超伝導体では、1/T2は超伝導状態で減少することが知られています。 したがって今回の結果はSr2RuO4におけるスピン三重項対を支持する結果の1つと言えます。1/T2の増大の詳細な原因は本研究では解明されず、それは今後の課題です。

この結果はPRB誌に掲載されました。

Sr2RuO4における101Ru核スピン―スピン緩和率1/T2の温度依存性
Sr2RuO4における101Ru核スピン―スピン緩和率1/T2の温度依存性。測定が行われた2つの試料とも、緩和率が超伝導状態(約1.5 K以下)で増大している。試料1と2では前者の方が良質で、その違いは緩和率の増大の強さにも反映されている。また、上部臨界磁場を超える磁場(c軸方向に3 T)のもとでは低温でも緩和率の増大が見られない。

[1] H. Mukuda et al., Phys. Rev. B 65, 132507 (2002).

論文情報

Masahiro Manago, Takayoshi Yamanaka, Kenji Ishida, Zhiqiang Mao, and Yoshiteru Maeno
Phys. Rev. B 94 144511 Oct. 2016