強い反対称スピン軌道相互作用が存在する下での超伝導 - CaIrSi3の単結晶育成、放射光実験による電子状態の解明と超伝導の異方的振舞

空間反転対称性を持たない結晶構造を持つ物質では、それに伴うパリティ混合が起こります。これは、空間反転対称性の破れに伴ってスピン軌道相互作用の奇関数成分(反対称スピン軌道相互作用)が有限になることと関係しており、このとき結晶中を運動する電子のハミルトニアンは、有限の反対称スピン軌道相互作用を持つことを表しています。超伝導の基礎理論としてよく知られるBCS理論は、パリティが保存されることを前提とした理論体系であるため、これを満たさない状況で起こる超伝導は「スピン一重項-三重項混合状態」として理解され、従来の「スピン一重項状態」とは異なる様々な新奇現象が起こる舞台として注目されています。図(a)に示すCaIrSi3はATX3型と呼ばれる結晶構造をもつ物質であり、特定の1軸方向(c軸方向)にのみ空間反転対称性が破れています。これに伴って生じる「ラシュバ型反対称スピン軌道相互作用」は空間反転対称性の破れた場合の最も単純な例として理論面から最もよく研究されていることから、理論との比較検証に最適な物質と考えられます。

本研究で我々はCaIrSi3の単結晶育成を、アーク溶解法と自己フラックス法を組み合わせることで世界で初めて成功しました(図(b))。また得られた単結晶を用いて、比熱、直流磁化の結晶軸方向依存性を調べ超伝導の異方的振舞を明らかにしました。さらに、得られた単結晶の結晶パラメータを用いて第一原理計算を行い、得られた電子状態のスペクトルを大型放射光施設SPring-8で行った光電子分光測定より得られた電子状態のスペクトルと比較することにより、第一原理計算の結果が実際の実験結果を良く再現すること、さらにスピン軌道相互作用まで考慮した計算の結果が、実際の実験結果をより正確に再現することを明らかにしました(図(c))。これは結晶中の電子が実際に「強いスピン軌道相互作用(=強い相対論効果)の影響を受けている」ことを示しています。本物質の単結晶育成法が確立されたことにより理論と実験の詳細な比較検証が可能になり、今後の研究発展が期待されます。

また本成果は、2008年に修士課程より本研究室所属となった学生が4年間に渡り物質開発、極低温下での精密測定、第一原理計算および放射光測定を行った成果であり、本研究室の強みを活かしたひとつの例と言えます。本研究成果はPhysical Review B誌に掲載されています。

2012年11月のTopicsの図
図1: (a)CaIrSi3の結晶構造 (b)CaIrSi3の単結晶、電気抵抗率および比熱 (c)光電子分光と第一原理計算の比較。

論文情報

G. Eguchi, H. Wadati, T. Sugiyama, E. Ikenaga, S. Yonezawa, and Y. Maeno
Physical Review B 86 184510 Nov 2012