方向依存59Co NMRを用いたUCoGeにおける異方的磁気揺らぎの研究

UCoGeはスピン一重項超伝導では共存が不可能と思われていた超伝導と強磁性とが出現する物質として注目を集めています。UCoGeにおける両者の共存の様子や、その特異な超伝導の発現機構を解明するために、我々は59Co NQR/NMRを用いた研究を行っています。これまでに純良単結晶試料における59Co NQR実験から、超伝導と強磁性が実空間上で微視的に共存していることを明らかにしました[1]。この微視的共存や、非常に高い臨界磁場[2]が観測されていることなどから、UCoGeにおいてスピン三重項超伝導が実現していると考えられています。

今回我々は単結晶UCoGeにおいて、印加方向をよく制御した磁場中で59Co NMR測定を行いました。各軸方向のナイトシフト(K)、スピン格子緩和率(1/T1)の結果から、UCoGeではスピン帯磁率の静的成分(図1.(a))、動的成分(図1.(b))が共に強いイジング異方性を持っていることを明らかにしました。そして、強磁性転移温度(TCirie)付近で見えていた強磁性揺らぎによる1/T1の発散は磁化容易軸であるc軸に磁場をかけた際は強く抑えらましたが、垂直方向にかけた場合はほとんど抑えられず発散が残ることもわかりました。理論研究からはこのイジング的な強磁性揺らぎは、スピン三重項超伝導の引力になり得ることが示されており、これまで観測されてきた異常に大きな臨界磁場を説明することも可能になります。

今後も、強磁性揺らぎと超伝導との関連性を明らかにするべく、実験を進めていく予定です。

2010年10月のTopicsの図1
図1:(a)UCoGeのNMR ナイトシフトKの温度依存性。c軸方向のみ大きくなるイジング的振る舞いが見られた。挿入図はK-χプロット。直線の傾きが軸方向に殆ど寄っていないことは超微細相互作用がほぼ等方的であることを意味している。
(b)UCoGeの59Co NMR 核磁気緩和率1/T1の温度依存性及び、f電子を含まない参照物質YCoGeの59Co NQR 1/T1。1/T1は磁場に垂直な揺らぎを観測するため、a,b方向に大きな1/T1c軸方向のみ動的揺らぎが大きいイジング的性質を意味している。系が局在的な振る舞いを示す領域(T*以上)では、イジング的な異方性は弱まり、1/T1の角度依存性はほとんど見られない。

この結果はPhysical Review Letters 誌に掲載されました。


[1] T. Ohta, T. Hattori, K. Ishida, Y. Nakai, E. Osaki, K. Deugchi, N. K. Sato. J. Phys. Soc. Jpn. 79 023707 (2010).
[2] N. T. Huy, et al., Phys. Rev. Lett. 100 077002 (2008).

論文情報

Yoshihiko Ihara, Taisuke Hattori, Kenji Ishida, Yusuke Nakai, Eisuke Osaki, Kazuhiko Deguchi, Noriaki K. Sato, and Isamu Satoh
Phys. Rev. Lett. 105 206403 Nov. 2010