NMRで見る鉄系超伝導体BaFe2(As0.67P0.33)2の物性

鉄系超伝導体においては様々なドーピングによって超伝導が発現することが知られています。最近、Asの一部をAsと等価数のPで置換することによってキャリアをドープせずにTcが30 Kにも上る超伝導が出現するBaFe2(As1-xPx)2が発見されました。この系ではキャリアをドープしないためFermi面を大きく変化させないと考えられることから鉄系超伝導体の発現機構の解明に重要であるとして多くの注目が集まっています。 今回、私たちの研究グループは固体電子物性研究室の松田祐司教授、芝内孝禎准教授、京都大学低温センターの寺嶋孝仁教授、笠原成博士らと共同で、核磁気共鳴法(NMR)を用いて、BaFe2(As1-xPx)2(x = 0.33, Tc = 30 K)における常伝導状態、超伝導状態の物性を微視的に調べました。

常伝導状態では静的磁化率に比例するナイトシフトが温度によらずほぼ一定なのに対して、核スピン‐格子緩和率1/T1は低温に向けて発達することがわかりました。ここで1/T1はブリルアンゾーン内の波数qで平均したスピン揺らぎに関係する物理量です。 このことから、ナイトシフトと1/T1のデータは有限の波数をもったスピン揺らぎ、つまり反強磁性揺らぎが低温に向けて発達していることを示していると考えられます。 このような反強磁性揺らぎの発達は、他の"122"系でも見られており、"122"系超伝導体に共通の性質であることが示唆されます(図1)。

超伝導状態では通常s波超伝導体に見られるコヒーレンスピークが見られず、Tc直下から超伝導ギャップの出現を示す1/T1の減少が観測されました。 また、4 K以下で1/T1Tに比例する振る舞いが見られ、超伝導ギャップ内において残留状態密度が存在していることを表しています。 これを固体電子物性研究室による磁場侵入長と熱伝導率の結果[1]と考え合わせると、この残留状態密度の存在は、超伝導ギャップにラインノードがあることを示していると考えられます。 このような1/T1Tに比例する振る舞いは他の鉄系超伝導体では見られておらず(図2)、似たTcの値、相図、Fermi面であるBaFe2(As1-xPx)2と(Ba1-xKx)Fe2As2が異なる超伝導ギャップを持つことを示唆する結果となっています。

2010年01月のTopicsの図1
図1 : BaFe2(As0.67P0.33)2における31P核(右軸)、75As核(左軸)での(T1T)-1の温度依存性。比較として鉄系超伝導体の各系における最高Tcを示す試料のデータも載せてある。
2010年01月のTopicsの図2
図2 : BaFe2(As1-xPx)2と(Ba1-xKx)Fe2As2における超伝導状態でのT1-1の温度依存性。赤線はラインノードモデルで残留状態密度を仮定して計算した結果。

この結果はPhysical Review B誌に掲載されました

[1] K. Hashimoto et al., Phys. Rev. B 81, 220501(R) (2010).

論文情報

Yusuke Nakai, Tetsuya Iye, Shunsaku Kitagawa, Kenji Ishida, Shigeru Kasahara, Takasada Shibauchi, Yuji Matsuda, and Takahito Terashima
Phys. Rev. B 81 020503(R) Jan. 2010